會田瑞樹の音楽歳時記

打楽器奏者、會田瑞樹の綴る「現代の」音楽のあれこれ。

食べることが三度の飯より好き:五食め「麻婆豆腐」

 この料理は奥が深い。   
 いつも色々な場所に着地してしまう。毎回、同じところに着地できないのだ。  
 豆腐の水切りの問題もあるのかもしれない。いや、隠し味のトマトの水気の量が本当に素材によって違う。もしくはどこまで辛くするか… とにかく毎回、作るたびに発見があるし、レシピも様々。家庭によっても、レストラン、街の中華屋さん...どこにいっても絶妙に異なった、個性的な味付けがある。
 

 肉味噌を作る。弱火でじっくりひき肉の余分な油を取り出してかりっとした食感を目指す。甜麺醤を中心に五香粉で風味をつける。肉味噌ができたら取り出して、改めて豆板醤、刻んだにんにく、しょうが、トウチを弱火で火にかけて、ふつふつと煮えてくる。香りが立ってきたら、肉味噌、よく水気を切った豆腐を入れる。そしてこの後に中華だしスープを入れるか、トマトベースのだしを入れるか、その日の気分で決める。凝って鶏がらスープでやった時期もあった。ある程度水気が出たら水溶き片栗粉でとろみをつけて一気に強火で。お好みであとがけ花椒を。

 いつも同じだ。しかし、なぜこんなに毎回様々な味わいが生まれるのか。  
 「素材の味を引き出すことですよ。」  
 と、昔料理人の北さんとお話をしたことがある。仙台のさる銘店のマスターだ。素材の味、それらの声を聞くということなのだろうか。若い僕にはその達観した精神をただ黙って聞くより他なかった。  
 不思議なことに麻婆豆腐を作るたびに、北さんのお言葉が蘇ってくる。中華料理というのは本当に奥深いと思う。素材に向き合っての調理。なんだか、音楽にも似ているような気がして、麻婆豆腐を作るたびに、自分の襟を正しているような気分になる。

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